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2022/03/30

連載『スポーツ情報って面白い!』?/スポーツ情報がアスリートを育む

 子どものスポーツ離れ、二極化が議論されて久しい。これらに関する情報は枚挙に暇が無く、ここでその詳細を論じることは避けたい。子どもたちが運動をしないことによって体力や運動能力の向上が妨げられることは健康的な生活を送る上では大きな問題となる。また、このことは日本全体のスポーツの活性化にも大きな影響をおよぼしている。スポーツ人口の減少である。スポーツ人口が減少すれば高レベルで活躍するアスリートが出現する確率は低下することになる。確かに子どものスポーツは二極化という局面も持ち合わせており、スポーツに熱心に取り組む子どもたちも多くいる。しかし、この子どもたちが出会う競技種目は野球であり、サッカーであり、バスケットボールなのだ。つまり、人気があり、親の世代が慣れ親しんでおり、教室やクラブの門戸が広い競技に限られているということだ。対照的に取り組む人口が少ない競技では、若い世代がその競技種目の存在さへ知らずにますます競技人口を減らすことになる。このことは日本のスポーツを豊かにすることとは相容れない。

 この課題に対する方策として打ち出されたのがスポーツタレント発掘育成事業である。その事業内容は応募してきた子どもたちに対してタレント(才能)を見いだすためのテスト行い、選抜された子どもたちを育成し、世界の舞台で活躍するトップアスリートにするというものだ。現在は43の地域がそれぞれの実情に応じた形でこの事業を実施している。育成の取り組みの中には様々なスポーツの体験が含まれており、子どもたちは自分に合う競技種目をじっくり選択することができる。もちろん育成のプログラムの中には目標の設定の仕方や栄養学の情報などアスリートライフに欠かせないプログラムも含まれている。先の北京冬季オリンピック競技大会のジャンプ競技で金メダルを獲得した小林陵侑選手もこの事業で見出されたタレント(人材)の一人である。2004年に福岡県で始まったこの事業はようやく揺籃期を経て、奏功の兆しが見え始めたと言えるのかもしれない。

 この事業は地域の熱心な取り組みだけでは成立しない。トップアスリートを育てるためには中央競技団体への道のりが描かれていることが必要不可欠となる。この事業の中ではこの道のりを「パスウェイ」と称している。子どもの発達段階にあわせて適切な指導内容を提示し、地域へトップレベルの指導を提供するためには中央競技団体との連携がなくてはならない。日本スポーツ振興センターではこれらを系統的に実施するために「戦略的パスウェイ支援事業」を行っている。これは地域と競技団体との連携を促進させたり、競技団体の強化プログラムに地域の子どもたちを参加させるための仕組みづくりを支援したりする取り組みのことだ。つまりこの事業の中核は有能な人材を発掘し、育成することだが、視点を変えればいかに有能な人材を有能なコーチに出会わせるかということにもなる。そこに情報が必要となる。この事業を成功に導くためには、ある特定の地域にはどのような人材(有能なアスリートの卵や有能なコーチなど)がいるのか、その地域にはある競技を強化するための資源(競技環境、これまでの強化の実績、競技人口など)がどれくらい存在するのかなどといった情報が必要とされる。これらの情報(information)が収集され、分析され、活用され、日本のスポーツを豊かにするための情報(intelligence)になる。同様の取り組みはイギリス、オーストラリア、カナダなどでもさらに先進的に行われており、これら諸外国の情報も重要であることは言うまでもないだろう。

 「戦略」とは現状を分析し、資源を分散させるのではなく、どこに集中的に配分することが効率的なのかを決めることである。換言すれば「やらないことを決める」ことでもある。これまで述べてきた事例からもわかるようにそのためには情報が重要な役割を果たすのである。

スポーツ情報マスメディア学科 教授 粟木一博
 

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